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高松高等裁判所 昭和34年(ネ)281号 判決 1961年1月17日

控訴人(被申請人) 愛媛県

被控訴人(申請人) 真鍋ハル子

主文

原判決を取り消す。

被控訴人の申請を却下する。

訴訟費用は、第壱、弐審分共被控訴人の負担とする。

事実

控訴人訴訟代理人は、主文同旨の判決を求め、被控訴人訴訟代理人は、控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張並びに証拠の提出及び認否は、当審において、被控訴人訴訟代理人は、疎甲第八号証を提出し、左記乙号各証の成立を認め、控訴人訴訟代理人は、疎乙第一六号証の一ないし三を提出し、右甲号証の成立を認めた外は、原判決事実摘示のとおりであるから、ここにこれを引用する。

理由

本件仮処分申請の要旨は、

被控訴人は、愛媛県公立学校教諭として同県西条市玉津小学校に勤務していたところ、任命権者たる同県教育委員会は、昭和三〇年三月三一日被控訴人に対し依願退職処分(以下本件退職処分という。)をした。然し、本件退職処分の基礎となつた被控訴人の退職願は、同月二六日一旦提出せられたが、本件退職処分のなされる前に撤回せられたのである。それで、本件退職処分は、被控訴人の退職願に基づかずになされたものであり、地方公務員法第二七条に違反する違法があり、右違法は、重大かつ明白であるから、本件退職処分は、無効であり、従つて、被控訴人は、控訴人に対し、依然として、愛媛県公立学校教諭としての給与支払請求権を有するから、控訴人に対し、昭和三三年四月一日以降の給与の支払として、金五九九、七六〇円及び昭和三四年一〇月一日から本案判決確定に至るまで毎月末迄に金三三、一二〇円の支払を命ずる旨の仮処分決定を求める、

というに在る。

ところで、行政事件訴訟特例法第一〇条第七項は、「行政庁の処分については、仮処分に関する民事訴訟法の規定は、これを適用しない。」と規定しており、本件退職処分が同条項の「行政庁の処分」であることは、明らかでありまた、本件仮処分申請は、本件退職処分の効果の一部である被控訴人の給与請求権消滅という効果の発生を阻止するためその効力の一時停止を求めるものというべきであるから、本件仮処分申請は、右条項に照らし不適法であるといわなければならない。被控訴人は、本件退職処分が無効であることを本件仮処分申請の理由としているけれども、仮に本件退職処分が被控訴人主張の事由により無効であるとしても、本件退職処分は、行政処分として存在しているものというべく、行政事件訴訟特例法の右規定の趣旨は、行政処分がかように無効である場合においても、それが有効である場合のその効力の全部または一部を停止すると同様の結果を得るには、同法第一〇条第二項の規定による執行停止の方法によるべく、民事訴訟法の仮処分に関する規定によることは、これを許さない趣旨と解するを相当とする。

果して然らば、本件仮処分申請は、不適法としてこれを却下すべきである。それで、これと異なる見解のもとに本件仮処分申請を認容した原判決は、不当であるから、これを取り消し、本件仮処分申請を却下すべきである。

よつて、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九六条第八九条に従い、主文のとおり判決する。

(裁判官 石丸友二郎 安芸修 荻田健治郎)

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